「最近、歯ぐきから血が出る」「昔治療した歯がグラグラする」——そんな小さなサインが、実は歯を失う前ぶれかもしれません。大人の歯(永久歯)は、親知らずを除くと全部で28本。一度抜けてしまうと二度と生えてくることはありません。
この記事では、日本人が歯を失う主な原因と、抜けるリスクが高い歯の特徴、そして年齢を重ねても自分の歯を守るための予防法をわかりやすく解説します。
何歳ごろから、何本くらい歯を失うのか
歯が抜け始める平均的な年齢は40代といわれています。目安としては、40代で約1.5本、50代で約2.5本を失い、70歳までに合計でおよそ4本が抜ける計算です。
ただし、これはあくまで平均値です。原因を知り、早めに対策や治療を受けていれば、生涯1本も失わずに過ごすことも十分に可能です。逆に、放置すれば平均よりずっと早く歯を失うこともあります。
歯が抜ける3大原因
全国の歯科医院を対象にした抜歯原因の調査(2018年)では、抜歯の主な原因は次の順になっています。
上位3つで全体の8割以上を占めています。それぞれの特徴を見ていきましょう。
1位:歯周病 ― 静かに進み、気づいたときには手遅れに
歯周病は、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)にたまったプラーク(歯垢)の細菌によって、歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)が壊されていく病気です。進行すると歯槽骨が溶けて歯を支えられなくなり、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
歯周病が怖いのは、初期にはほとんど痛みがないことです。歯ぐきの腫れや歯みがき時の出血といったサインはあるものの見過ごされやすく、グラつきを自覚したころにはすでに重症化しているケースも少なくありません。
また、虫歯のように悪い部分を削って取り除く治療ができないため、プラークや歯石をていねいに除去し続けることが治療の中心になります。こうした性質から重症化しやすく、特に高齢になってから歯周病によって抜歯を余儀なくされる方が多いのが現状です。

2位:虫歯 ― 放置すれば歯そのものが崩れる
虫歯は、細菌が出す酸によって歯が溶けていく病気です。小さいうちに治療すれば削って詰めるだけで済みますが、放置すると歯の神経まで達し、さらに進むと歯の根だけが残って抜歯せざるを得なくなります。
虫歯は自然に治ることはありません。痛みが一時的におさまっても、それは神経が死んでしまっただけで、内部では進行が続いている場合もあります。
大人の場合は特に、以前治療した歯の詰め物・被せ物のすき間から再び虫歯になる「二次虫歯」や、加齢で歯ぐきが下がって露出した歯の根元にできる虫歯に注意が必要です。
3位:破折 ― 治療済みの歯ほど割れやすい
破折とは、歯が割れたり折れたりすることです。転倒などのケガだけでなく、日常的な噛む力が原因で起こることも多く、虫歯の治療で神経を取った歯に多く見られます。神経を取った歯は栄養が届かなくなり、枯れ木のようにもろくなるためです。
歯の根が縦に割れる「歯根破折」は外から見えにくく、気づいたときには抜歯しか選択肢がないこともあります。近年は虫歯や歯周病による抜歯が減る一方で、破折の割合が増えていることも報告されています。
抜けるリスクが高い歯の特徴
次のような歯は、特に注意が必要です。
歯周ポケットが深い歯
健康な歯ぐきの歯周ポケットは1〜2mm程度です。4mm以上になると歯周病と判断され、10mmを超えると歯が抜けるリスクが大きく高まります。歯周ポケットの深さは歯科医院の検査で測定できます。
痛みがなく放置している虫歯
「痛くないから大丈夫」と放置している虫歯は、気づかないうちに深く進行していることがあります。黒い点や穴、冷たいものがしみるといったサインがあれば、早めに受診しましょう。
被せ物・詰め物がある歯、神経を取った歯
銀歯などの被せ物には寿命があり、劣化してできたすき間から二次虫歯が起こりやすくなります。再治療のたびに歯は削られて小さくなり、神経を取った歯はさらに割れやすくなります。治療を繰り返すほど、その歯を失う可能性は高まっていくと考えておきましょう。
歯の喪失は全身の健康にも影響する
「80歳で20本以上の自分の歯を保とう」という「8020(ハチマルニイマル)運動」が示すように、自分の歯で噛めることは健康寿命と深く関わっています。
歯を失って噛めなくなると、やわらかい食べ物に偏って栄養バランスが崩れやすくなります。また、歯周病菌は誤嚥性肺炎や糖尿病の悪化、心臓・血管の病気などとの関連も指摘されています。歯を守ることは、からだ全体を守ることにもつながるのです。
歯を失わないための予防法

1. 定期的に歯科でメンテナンスを受ける
歯周病も虫歯も、初期は自覚症状が乏しい病気です。3〜6か月ごとに歯科医院で検診とクリーニングを受けることで、トラブルを早期に発見し、セルフケアでは落としきれない歯石も除去できます。
2. デンタルフロス・歯間ブラシを使う
歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れは十分に落とせません。フロスや歯間ブラシを毎日の習慣に加えるだけで、虫歯・歯周病のリスクを大きく減らせます。
3. 歯ぎしり・食いしばりを対策する
歯ぎしりや食いしばりは、歯や顎に強い負担をかけ、破折や歯周病の悪化の原因になります。自分で気をつけるのが難しい場合は、歯科医院で就寝時用のマウスピースを作ってもらうのが効果的です。
4. 食生活を見直す
甘いものの摂りすぎや、だらだらと続く間食は、口の中が酸性になる時間を長くし虫歯の原因になります。間食の回数や時間を決めるだけでもリスクは下がります。
5. 禁煙・節煙する
たばこは歯ぐきの血流を悪くし、歯周病を悪化させます。さらに歯ぐきの出血といったサインが出にくくなるため、発見が遅れやすくなる点にも注意が必要です。
6. スポーツ時はマウスガードを
接触の多いスポーツでは、歯の破折や脱臼を防ぐためにマウスガードの装着が有効です。
こんな症状があれば早めに歯科へ
- 歯みがきのときに歯ぐきから血が出る
- 歯ぐきが赤く腫れている、むずがゆい
- 口臭が気になる
- 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった
- 歯ぐきが下がって歯が長く見える
- 歯がグラグラする、噛むと違和感がある
- 冷たいもの・甘いものがしみる
ひとつでも当てはまる場合は、歯周病や虫歯が進行しているサインかもしれません。
まとめ
歯が抜ける原因の多くは、歯周病・虫歯・破折の3つです。いずれも初期には気づきにくく、静かに進行するのが共通点です。一方で、どれも適切なケアと早期治療で予防・進行抑制ができる病気でもあります。
毎日のていねいなセルフケアと、定期的な歯科医院でのメンテナンス。この2つを続けることが、いくつになっても自分の歯で食事を楽しむためのいちばんの近道です。